タイトル:
世にも怪奇な物語監督:ロジェ・ヴァディム 他
請求記号:D7BA/ヨ
中央図書館所蔵コード:630342480
その昔、日曜夜のテレビ番組に『日曜洋画劇場』というのがありました。解説をされていた映画評論家の故・淀川長治さんの「サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ」という決めゼリフをご存じなのは何歳以上の方なのでしょうか。
その日曜洋画劇場でかつて放映された『世にも怪奇な物語』を見て「トラウマになるくらい怖かった」という人はかなりいるようで、私もその一人です。
『世にも怪奇な物語』はエドガー・アラン・ポーの3つの短編を原作とするオムニバス形式の映画で、出演者も監督もそれぞれ違います。私が「めっちゃコワかった」と覚えていたのは、そして大方の人もそうだろうと思われるのは、3話目の『悪魔の首飾り』の結末です。子どもだった私は「いいかげんにしてもう寝なさい!」と親に怒られる頃合いの時間に、まだ未練がましくチャンネルをガチャガチャ回していた(昔のテレビにはリモコンなどなくて、ダイヤル式のチャンネルが付いていたのですよ)ばかりに、たまたまこの怖い部分を見てしまったのです。見たのは5、6分、そして本当に怖いシーンはたぶん10秒ぐらいだったのに、その晩は怖さのあまりなかなか寝つけなかったことを覚えています。目を閉じるとあの場面が浮かんできて………、うわーーっ!!と。
改めてこの映画を見ると、やはり『悪魔の…』は怖い。不気味で怖い。
物語は原作の設定も筋書きも大幅に変えており、現代のローマが舞台。アルコール依存症+薬物中毒の主人公が高級スポーツカーでローマの街を猛スピードで疾走し、そのあげくに……、というストーリーです。何が不気味かって、出てくるのが異様に蒼白な顔の主人公と、仮面を貼り付けたような笑顔の人とか生気のないマネキンみたいな人ばかりだし、現実のローマの街並みではない、病み疲れた彼の頭の中を映し出したようなサイケデリックな風景が延々と流れるし。こちらの感覚までめちゃくちゃに引っ搔き回されて病んできそうです。そしてその結末が、…アレだもの。
監督はイタリアの巨匠、フェデリコ・フェリーニ。「短編に限って言えばフェリーニの最高傑作」という意見をネットで見ました。フェリーニ作品をそう知っているわけじゃないのに言うのは気が引けるけれど、同意。
『悪魔の…』にくらべて評価は高くないようですが、私は1話目の『黒馬の哭く館』に妙に惹かれるものがありました。
こちらも設定と内容を原作とは変えています。奔放・傲慢・残忍な伯爵令嬢の主人公は、従兄の男爵に心惹かれ誘惑しようとしたが拒絶されてしまう。プライドを傷つけられ怒った彼女は怖ろしい報復を企む…。このヒロインを若き日のジェーン・フォンダ、誘惑される男爵を実弟のピーター・フォンダが演じています。ともに美女美男で絵面的にはとてもキレイですが、見る側は彼らが実の姉弟だと知っているわけで、どうしたって背徳的というか妖しい雰囲気を感じるのです。
このあと、物語の真の主役と言うべき黒馬が登場します。彼女はこの馬を偏愛し、長い時間をいっしょに過ごすようになるのですが、彼女が馬と戯れるシーンや海辺を走る場面が実に美しい。最後の最後、ヒロインは愛する馬とともに破滅に向かって疾走して行きます。この時の彼女の表情…こういうのを「恍惚」と言うんだろうな。怖くはないですが、退廃、耽美、ロマンティシズム、といった雰囲気が好きな方にお勧めです。
最後に2話目の『影を殺した男』を簡単に。原作はよく知られた短編で、この『影を…』が最も原作に忠実に作られています。また3編の中で一番タイトル通りの“怪奇”な内容だと感じました。ドッペルゲンガーを扱った物語で、主演は「世紀の二枚目」アラン・ドロン。美貌の絶頂期にあったドロンが画面に二人とか、眼福かよ…と思ったことでした。
ついでですが原作のご紹介を。
・黒馬の哭く館 →『メッツェンガーシュタイン』
・悪魔の首飾り →『悪魔に首を賭けるな』
ともに『
Xだらけの社説』(資料番号:112533541 第一図書館所蔵)に収録
・影を殺した男 →『ウィリアム・ウィルソン』
『
アモンティラードの樽その他』(資料番号:111666552 中央図書館所蔵)他 に収録