タイトル:『福島モノローグ』
著者: いとうせいこう
資料コード:112496537
請求記号: 543.5/イ
福島県(南会津郡)は私の父の故郷です。子どもの頃は長い休みのたびに遊びに行っていました。名所の鶴ヶ城や大内宿に連れて行ってもらったり、夏は山で遊び、冬は玄関より高く積もる雪に興奮したり。幼いころの記憶では祖父母宅の屋根は茅葺で、会津弁の親戚と話すのも新鮮で、思い出がたくさんあります。東日本大震災の時、親戚に致命的な被害は無かったものの、「ふくしま」が意味するところが大きく変わったことは事実です。
いとうせいこうさんの『福島モノローグ』は、2011年3月11日の震災から時を経て、福島で暮らす方々を取材した7編の記録集です。
「WITH COWS」は、福島第一原子力発電所が立地した双葉郡大熊町の牛たち、その現状を背負って活動している女性に取材しています。当時、何が起きたのかも分からない牛たちと、家族同様に牛と暮らしていた酪農家の方々の困惑、起きたことの残酷さ、将来への不安は報道だけでは知る事ができない内容でした。汚染について科学的な調査も行いながら、牛が果たす環境保全的役割も証明して、共存を実践する女性の活動を知ることが出来ました。
「RADIO ACTIVITY」では、双葉郡富岡町の方々の避難先でラジオ局を立ち上げた男性に取材しています。震災直後に報道は日々刻々とありましたが、普段ならご近所さんとのおしゃべりで得られていた身近な情報が一切なくなった不安を穴埋めしようと、町民に向けてラジオ局を立ち上げた方がいたのです。「臨時災害放送局」は被災地で立ち上げるのが条件で、避難先で放送する前例が無く、許可を得るまでに困難が多々あったそうです。そうした状況下で、人と人との繋がりや、応援する人と感謝する人、小さな繋がりが重なることで不可能が可能になる様子を知りました。
私はこの本を今年(2026年)刊行された文庫版を読んだのですが、後書きには「単行本には出ていただいたのだが……再録されることを遠慮された方があった。」とありました。現在もこうした複雑な思いが続いていることも知らなければならないと思いました。
また類書として『増補 復興の書店』(稲泉 連/著,岩波現代文庫)もお勧めしたいと思います。