この春、私は自動車教習所に通い始めました。三十代で、「未知」への挑戦です。
そんな今、ふと読みたくなったのが、森博嗣さんの『道なる未知』というエッセイです。
森博嗣さんと言えば、作中に登場するクールなドライブシーンが印象的です。教習所に向け、「森さんの本を読んで気分を高めよう、人生の先輩の思考から力を借りよう」と今回手に取りました。
この本は、整備された道路から、人生という意味での「道」、ご自身が趣味で庭に走らせる機関車やジャイロモノレールまで、あらゆる道とその先に待つ未知をどう捉えるかが綴られた一冊です。
元研究員で、今は森の中で静かに暮らしながら執筆を続ける著者の文章は、鋭く論理的です。一見すると突き放しているようですが、不思議な温かさがあります。
「道があるから目的地に着けるけれど、誰しもが同じ場所に辿り着くわけではない」
「行動することこそが、自分を自由な世界へ運んでくれる」
そんな言葉たちが、日常を切り取ったモノクロ写真と共に静かに並んでいます。
私は、その中でも「行き着くことよりも、今歩いている状態にこそ価値がある」という言葉がお気に入りです。著者が奥様と交わす、他人行儀なようでいて深い信頼を感じる会話も、読んでいて心が解けるようでした。
実は私が免許取得を決めたのは、「今後、家族の送迎や介護に役立つから」「持っていて損はない」といった、義務感のような理由からでした。けれどこの本を読むうちに、「自分も好きな場所へ、自由に行けるようになりたいな」というシンプルな願いが自分の中にあることに気づきました。
「抜け道を探す人ほど、人生の決断ができない」なんていう、著者らしい鋭い一言にドキッとしたり、爽快な気分になったり。読み終わる頃には、少し重かった腰がふっと軽くなっていました。私たちが日々「効率」だと思って選んでいる道は、本当に目的地に繋がっているのだろうか?著者の言葉を借りるなら「抽象的なことを自分の人生に当てはめて」考えるきっかけになりました。
学生さんに囲まれての教習は緊張しますが、新しい「道」に出会うまでの過程を、一歩ずつ楽しんでいこうと思います。皆さんも、この春、新しい「道」へのヒントを図書館に探しに来ませんか?
タイトル:『道なき未知』
著者:森 博嗣
請求記号:914.6 /モ
資料番号:611977879