鉄道マニアには様々な種類がありますね。写真を撮りたい「撮り鉄」、音を楽しみたい「録り鉄」、旅を楽しみたい「乗り鉄」、電車が大好きな子どもは「子鉄」というそうですが、御茶ノ水駅そばの聖橋にも撮り鉄垂涎の撮影スポットがあります。JR総武線、JR中央線、地下鉄丸の内線の3車両が橋の下で立体交差する時間帯が何度かあって、最近はここを目指して集まってくる外国人観光客も多いそうです。
私は撮り鉄ではなくて、どちらかというとローカル線のひとり旅を楽しむ乗り鉄なのですが、「聖橋」「総武線」「中央線」とワードを並べた時に浮かんでくる歌があります。さだまさしさんが1978年に発表した「檸檬」。食べかけの檸檬を聖橋から線路に放り投げる彼女と、それを見つめる彼。橋の下には赤い中央線と黄色い総武線。
さださんは文学青年でいらっしゃいましたから、当然この歌は梶井基次郎の「檸檬」をモチーフにして、敢えて漢字のタイトルにしたのでしょう。酸っぱい檸檬に凝縮された若さゆえの焦燥と将来への漠然とした不安は、その頃学生だった私にも共感できるものがありました。50年近く経った今でも、御茶ノ水駅を降りるとあの頃の学生たちの姿がぼんやりと浮かんでくる気がします。
ところで、電車が交差するスポットですが、恐らくは誰にも知られていない、私だけのお気に入りの場所が稲城市内にあります。長峰から鶴川街道へ向かう坂道を降りきったあたりの正面から、駒沢学園の道をまたぐように京王相模原線の高架が見えます。稲城駅と若葉台駅をそれぞれ7時45分に発車した上りと下りの電車が、ちょうど7時46分にこの上ですれ違うのです。電車の遅延もありますから、毎日この光景が観られるわけではありません。通勤の道すがら、このピッタリ交差が観られた日は「今日はラッキー!」とその日の仕事のモチベーションがあがる気がします。
若き日の檸檬の酸っぱい感傷とはまったく違った、楽しいだけの電車の交差。観ているだけで満足できるのは、さしずめ「観る鉄」とでも言うのでしょうか。