幼い頃、夏休みが始まると親に連れられて祖父母宅に泊まりに行った。
北関東にある母の実家は、祖父が襖(ふすま)を作っていた。
家の裏に細工場(さいくば)があり、朝から晩まで祖父はそこに詰めていた。
朝、食事の片付けをする祖母の手伝いが終わると、妹と細工場に飛んでいった。
小さなラジオから高校野球が聞こえている。
昔のことなのでクーラーなどなく、古い小さな扇風機が一つ音を立てて回っているだけの小屋だ。
それにも関わらず、私は宝物がいっぱいあるように思えてその場所が大好きだった。
祖父は、シャッ、シャッ、シャッと小気味よくカンナで木枠を削る。
釘を口に何本か含み、金槌でトントントントン手早く打つ。
襖の引き手を作るために、ためらいなくツツーィと丸く穴を空ける。
和紙の端を何枚か重ね合わせ、糊を付けた大きな刷毛でチャッチャッと塗る。
そんな祖父の器用な手元から目が離せなくて、
祖父に近づいては、「危ないからあっち行ってな!」と怒られる。
怒られても側にいたいから、カンナくずの周りでままごとをしながら
祖父の後ろ姿をあきもせず眺めていた。
午後は、朝から祖父が水を張ってくれていた、たらいで水浴びをする。
それから大きな柿の木の下にゴザを敷いて、いっぱいのカンナくずでままごとの続きをする。
夕方になると仕事が一段落した祖父が、数え切れないほどの植木に水やりをする。
その姿は細工場の顔とは違い、目尻が下がっていた。
そのままの顔で私たちを呼び、手ぬぐいで三人の木くずを払い、お風呂に入れてもらう。
祖父は木の香りがした。
短髪で、仕事中は頭に手ぬぐいを巻き、鋭い目つきをしていた。
右の耳に鉛筆を挟んで、常に木や和紙に印を付けていた。
祖母は、職人はおっかなくて、と嘆いていたが、家の中では祖母の方が強かった。
もう何十年も前の思い出だが、今でもしっかりと心に残っている。
夏休みは、旅行や水族館、テーマパークなど、遊びに行くことで楽しい思い出が作られるだろう。
しかし、ささいな日常であったとしても、人が集い、相手を思って共に時間を過ごすことで、
忘れられない思い出になる要素はたくさんあるのではないかと思う。
この夏、じいちゃん、ばあちゃんに会いにお墓参りに行くかなぁ。