「メルト」という言葉は、故郷のかの地を連想させるので、使いたくはないが、脳みそが
とろけだしそうな暑さが続く。いつまでこの暑さが続くのか、8月の末でもこの暑さだと、
ずっとずっと永遠に続くようで、気が滅入ってくる。
「日本は温暖な気候で、四季がはっきりしています。」と習ったのは、小学校の社会の
授業だったはずだが、あれから何十年も経つと、日本が、特に大都市部は温暖な気候
か、本当に疑わしくなってくる。夏場の気温は上昇の一途で、体温ほどにも上がるし、
風が吹けば大風となり、雨が降れば大雨で側溝が溢れだしてくる。
都心からだいぶ離れたこの近辺も、巨大なマンションが立ち並び、狭間では、うっかりすると
傘をへし折られるくらいの強風が吹く。実際それで6月に傘を一本ダメにした。
また道路はすべて舗装されているので、照り返しも強烈で、一歩外に出るだけで額に汗が
にじんでくる。二、三軒先では、いかにも南国風の鮮やかな色の花が咲き乱れ、蔓を伸ばし、
そのふんわりした花びらを熱くなったアスファルトの上に散らしている。
早く秋が来ないか待ち遠しくなる。
お盆が過ぎ、帰省していた人が戻ってきて、電車が混みはじまってもまだ秋は遠い。
甲子園で多くの高校球児が闘っているうちは無理だろうか。しかし決勝戦で勝ったチームが
深紅の優勝旗を掲げ球場を一周したら、秋の気配ぐらいは感じられるだろうか。
何年も前のテレビの画面だが、選手たちが場内一周する前に無人の外野を映していたら、
赤とんぼが群れて飛んでいる様子が撮影されていた。
このまま暑さにやられっぱなしも癪に障るので、太陽の恵みを利用させていただく。
家にある洗える物を端から次々と、それこそ手当たり次第に洗濯していく。
梅雨明けすぐにはカーペットを片付けた。一階の風呂場の浴槽に沈め、足でゴシゴシ。
脱水機には到底入りきらないので、ある程度水切れしてから運ぶが、まだまだ相当な重さ
である。我が家の干し場は二階なので干すだけで一苦労。汗がふきだす。しかしこの時期
の太陽の威力は絶大で、途中一回表裏をひっくり返しはしたが、たった一日で完全に乾いて
しまった。あきれるほどだ。
シーツ・タオルケットは日よけがわりに毎日干され、取り込む時も、かえってきちんとたたんで
おくと、内部に熱がこもり、寝苦しさの一因となるので広げたままにしておく。
ふと思い出したが、母が「夏は貧乏人にとっては良い季節」と言っていたっけ。まったくだ。
汗まみれの衣服も洗って干したら、ものの数時間で乾くのだから、衣装持ちでいる必要がない。
もうじきコオロギも鳴き始める。実家のある地方では冬に備え「ボロ取って裾つげ」と鳴いている
と教わった。
秋が待ち遠しい。