| 2012/08/21 | 平凡だが実は奥深い、ナス | | by 図書館スタッフ |
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ナスが好きだ。
焼きナス、蒸しナス、麻婆ナス、天ぷら、漬物と、ナスは煮ても焼いても揚げても、何をしても
おいしい。ナスとみょうがのみそ汁にいたっては、夏のみそ汁の最強コンビだと思っている。
茄子紺とも言われる紫紺色に下ぶくれの形も愛嬌タップリで、この季節はつやつやと光るナス
についつい手が伸びる。
その色艶と形が災いしてか、ナスは「ボケナス」「おたんこなす」など、人をののしるときに
使われる悲しい現実もある。しかし、これもある意味でナスの持つ個性が生んだ言葉では
ないかと思っている。
ナスは成分の9割以上が水分で、ビタミンやミネラルなどの栄養素は決して多くはない。
野菜の中では栄養に関しては少し見劣りする。
しかし一方で、茄子紺の皮にはナスニンと呼ばれる色素成分のアントシアンなど、豊富な
ポリフェノールが含まれている。それによって、がんや生活習慣病を引き起こす活性酸素
を抑える働きがあることがわかっている。
この作用はナスの皮の色が鮮やかなほど強く、逆に成育が悪く茄子紺の色が薄くなると
弱くなる。このことからも、「成育不良の色が惚けたナス=ボケナス=役立たずのとんま」
というのも、あながち間違いではない気もする。
ナスは悪口に使われる一方で、「一富士(いちふじ)、二鷹(にたか)、三茄子(さんなすび)」と、
初夢の縁起物としても使われている。この言葉にはいろいろな説があるが、一つに高いものを
並べたとの説がある。
江戸時代には、夏が旬のナスを1日でも早く食べることができるようにと、促成栽培が行われ
ていた。しかし、正月に食べるにはナスは大変高価だったため、富士山、鷹、の次にナスが
あげられたとされる。せめて初夢で食べたい、と多くの人がナスに思いを寄せていたのかと
思うと、何ともいじらしい。
また、ナスはお盆のときの精霊馬として、誉高い役目も果たしている。お迎えはきゅうりの馬に
乗って駆け足で、帰りはナスの牛に乗ってゆっくりと、大切な人たちを運んでいく。その役目を
仰せつかったナスは、単に形が牛に似ているからだけではない、はずだ。
ナスが登場するもう一つのよく知られたことわざに、「秋茄子は嫁に食わすな」がある。これには、
おいしいからもったいないという意味の他に、秋茄子は種が少ないので子種に恵まれなくなる、
アクが強く体を冷やすので妊娠中の嫁にはよくない、などの意味もあるとされる。ナスひとつに
嫁を邪険にする気持ちと、いたわる思いの両方を込めることができるのも、ナスの持つ特性から
といえるだろう。
今でこそナスは平凡な野菜と思われがちだが、野生植物だった頃のナスは大変個性的だった
らしい。たまに見かけるナスのへたにある棘は、空気中の水分を得るためと、動物から食べられ
ないように身を守るための名残だといわれている。味も人間が食べるようになる前までは、かなり
エグ味が強かったようで、外側と中身の両方から防御体制を整えていた植物だとされている。
今でもアクが強いのは、しっかりアク抜きをしないとおいしい料理になってやらないぞ、と人間に
警告を発しているのかもしれない。
同じナス科の植物には、個性派が多いのも興味深い点だ。ナス科には辛味成分のカプサイシン
を含む唐辛子や、毒性物質のニコチンを含むタバコなどがあり、元々は防御物質だったのを人間
が上手く利用することで、その個性を生かしている。
このように多彩な面を持つナスは、「成す」に通じる縁起のいいとされる野菜だ。体を冷やす作用
で熱中症予防にも効果があるとのことで、この夏はせっせと食べている。
これからもまだまだおいしい季節が続く。さて、今宵は焼きでいくか、揚げでいくか、悩むところ
ではあるが、なすがままにいくとしよう。
参考資料
・『身近な野菜のなるほど観察記』 稲垣栄洋 草思社(626.0/イ)
・『青葉高著作選1 日本の野菜』 青葉高 八坂書房(626/ア)
・『がん抑制の食品事典』 西野輔翼編著 法研(494.5/ニ)