梅雨の最中、たくさんの実をつけたびわの木を目にすると、
初夏の訪れを感じます。
子どもの頃、近所のおじさんが食べごろのびわを枝ごと切って
毎年届けてくれました。
そんな記憶があるせいか、スーパーの果物コーナーで
箱の中に鎮座する大粒の立派なびわを買う気にはどうもなりません。
特に値段を見ては…。
先日農協の販売所で見かけたびわは小粒でいかにも庭先のびわをもいできたという
風情があり、思わず買ってしまいました。
銅版画家の山本容子さんの作品に『揺籠のうた』があります。
童謡『ゆりかごの唄』(作詞:北原白秋/作曲:草川信)をモチーフにした
黄色を基調にした温かみのある作品です。
『ゆりかごの唄』の歌詞の2番に「びわの実」が登場します。
1番:ゆりかごの歌を かなりやがうたうよ
2番:ゆりかごの上に びわの実がゆれるよ
3番:ゆりかごのつなを 木ねずみがゆするよ
4番:ゆりかごの夢に 黄色の月がかかるよ
かなりや、びわの実、木ねずみ、月、これらに共通するのは黄色。
白秋にとって黄色は幸福の色ではないか、といった内容のことが
山本さんのエッセイの中にあったのを記憶します。
白秋さんもホントに心憎いことをなさるものです。
ケーキの焼ける匂いが部屋に漂ったとき
「たまごと砂糖を焼く匂いって、幸せの匂いがしますね」と云われたことがあります。
ケーキの焼ける匂いに色があるとすれば、まさしく黄色のイメージが湧きます。
材料のたまごも出来上がったスポンジも黄色ですね。
農協で買ったびわは、期待どおりちゃんとすっぱ味のある
子どもの頃食べたものと同じ味がしました。
木によじ登り、空き地を駆け抜け、近所のおじさんやおばさんに
頭を撫でてもらった私の黄金色の幼年時代を思い出しました。