学生時代に演劇を観る楽しさにめざめ、
だんだんと回数は減っているものの、今も劇場には足を運ぶ。
映像と違うのは、やはりその場に憧れの役者さんが立っているということ。
そして、劇場にいるいろいろな方とその空気を共有しているということ。
これは何にも代えがたい体験である。
大学生のころは、観た芝居と劇場とチケットの代金、
感想をエクセルで整理していたほど、観劇が日常だった。
一人でも平気で行っていたので、とにかく面白いかどうかも気にせず、
気になる役者さんや、演出家さんを追いかけた。
5本に1本くらいはまた行きたくなる劇団があり、
10本に1本くらいは好きな役者さんが見つかり、
50本に1本くらい、ただただ涙が溢れる芝居がある。
哀しいとか、楽しすぎてとか、感動してとか、
明確には言い表せない、滂沱の涙。
映画のときとは違うその涙は、
目の前にいる役者さんの「人間力」が流させるものだと思う。
ある芝居でそういう体験をし、紙吹雪の雪が降るラストシーンを呆然と観て、
まだ少しフラフラしながら劇場の外にでると、
開演前には降っていなかった本物の雪が降っていた。
周りを見ると、同じようにぼーっと空を見上げる
同じ芝居を観た人たち。
そういう景色は決して消えない記憶として残る。
先日、歌舞伎役者、十八代目中村勘三郎さんが亡くなった。
一度だけ、観劇友達に誘われて四谷怪談を観に行ったこと、
あのとき観に行けたことを本当によかったと、思い出す。
早替りのすごさを知り、歌舞伎がとっつきにくくないことを知った。
多くの人が勘三郎さんに消えない記憶をもらったのではないかと思う。