ホラーといえば夏、というのが定番です。
怖い映画や小説で背筋をヒヤリとさせて夏の暑さを乗り切ろうというわけですが、しかし、個人的には春に味わうホラーもまた良いものだ、と思っています。
春と言えば新しい生活がスタートする季節。期待がふくらむ反面、慣れない環境への不安から精神的に揺らぎがちになる時期でもあります。そんな木の芽時に、あえて心をよりゾワゾワさせるホラーを楽しむのも乙かな、という考えです。
今回オススメする『来る』も、存分にゾワゾワできるホラー映画です。
ごく平凡に暮らしていた幸せな家族に降りかかる様々な怪奇現象と、その原因を突き止め、祓うために立ち向かう霊媒師たちの戦いを描いた本作。岡田准一、妻夫木聡、松たか子など豪華な俳優陣も見どころですが、一番は何と言っても怖さが「二段構え」になっている点ではないかと思います。
ホラーにはざっくり分けてオカルト的な怖さを描いたものと、「ヒトコワ」などと呼ばれる人間の業や狂気の怖さを描いたものがありますが、『来る』はその両方を備えています。登場人物たちの人間模様もイヤ~な感じなら、襲い来る怪異もまたイヤ~な迫り方をしてくるという、何とも逃げ場のない怖さがあります。
しかし、そんな陰鬱な展開から一転して日本各地から霊能者が集結する終盤のシーンはなぜか少年漫画のバトルもののような熱さがあり、ここもまたイチオシのポイントです。
映画『来る』の原作は澤村伊智著の小説『ぼぎわんが、来る』。第22回日本ホラー小説大賞受賞作です。
澤村伊智は現在も精力的に新作を発表していて、近年のJホラーを牽引する作家として中央図書館でも多くの著作を所蔵しています。
映画は小説から大きく変更された点も多いため、それぞれの違いを比べることができるのも原作つき映画の楽しみのひとつです。
話は変わりますが、昨年はホラー小説の当たり年だったのではないかと、これまた個人的には思っています。
2024年のベストセラーランキング(トーハン調べ)の第1位は雨穴著『変な家』でした。また、同ランキング16位につけた背筋著『近畿地方のある場所について』も、小説投稿サイト発のモキュメンタリーホラーとして大いに話題となりました。中央図書館でも、この2作品は多くのリクエストを頂戴しています。
『変な家』はすでに映画化され、『近畿地方のある場所について』も今年8月に映画の公開が決まっているとのこと。近年の面白いホラー小説に共通するのは「映像化しても面白い」という点なのかもしれません。
皆様も、あえての春ホラー、いかがでしょうか。
監督:中島 哲也
出版社:東宝
請求記号:D7AB/ク
資料コード:630322852
著者:澤村 伊智
出版社:KADOKAWA
請求記号:913.6/サ
資料コード:611789547