書名:ある小さなスズメの記録
著者:クレア・キップス 訳者:梨木香歩
出版社:文藝春秋
請求記号:488.9/キ
図書館で本に携わっていると、装丁で心惹かれる本に出会うことがある。
この本もそうだった。クリームの外箱に、私の好きな酒井駒子さんの絵で
愛らしいスズメが描かれていて、赤い帯には“あの幻の名作が、よみがえる”とある。
本は紺の紙クロス、表紙には金で縁取りと原書名、著者名がある。見返しは空色で、
茶色の線画でプリムラの花が描かれている。しおりは見返しと同じ空色、花布は白。
扉絵は酒井駒子さんの絵で、窓辺のスズメが描かれている。
美しい装丁の本で、すっきりとした作りは洋書の趣がある。
ぱらぱらと本を繰ると、手のひらに乗ったり、トランプを引いたり、本を見たりと…
いかにも人に慣れた小さなスズメの写真がいくつか挿まれている。
この写真のことは後に明かされるのだが、晩年のものであり、得意のシーンを辿ったものであった。
この話は実話で、1940年にロンドン郊外に住む未亡人のクレアが、
巣から投げ出されたスズメの雛を拾い、育て、共に暮らした12年間の記録である。
時は第二次世界大戦の中で、話にも戦争の影が色濃い。
スズメは羽根と足に障害があったため巣から投げ出され、クレアの献身的な介抱で命を取り留めた。
本当に幸運な出会いだと思った。スズメは最初に見たクレアを親と思い、生涯慕い続け、
心地よい環境を得ることで、その能力を思い切り伸ばすことになる。
クレアにとっても、1人での暮らしに彩りと喜びを得る事が出来たのである。
クレアは音楽家であり科学者でもあると思った。スズメへの観察眼や飼育の工夫は、
とても理論的で知性のあふれたものだからだ。
野鳥であるスズメが、これ程の知恵と感情があり、
人を信頼し交流を持てるのかとエピソードのひとつひとつに驚かされた。
スズメは人に保護されるだけではなく、意志を持ち人に要求もしているのである。
クレアとスズメのやり取りは微笑ましく、とてもユーモアにあふれたものである。
このスズメが有名になったのは、絶間ない空爆にさらされた戦時下の防空監視所などで、
不安や絶望に陥っている人々や子供に、芸を見せて喜びや笑いを与えたことによる。
クレアは普段スズメとやっている遊びを見せたのである。
このスズメの生涯で一番心を打たれるのは、晩年の章である。11歳で心臓発作に倒れ、
体が不自由になりながら、二足歩行をしたり、
転んだ状態から宙返りで体を起こす工夫をしたりするのである。
年老いながら生きることに満ち足りて、不自由な体を適応させていくところは、
人もそうありたいと思い、感動させられるところである。
写真はこの折に撮られたもので、元気な頃を辿ったポーズに驚かされる。
読み物としても優れていると共に、鳥の生態の記録としてもとても貴重な書である。
絶版となっていたこの本が、新しい訳で再び出版されたことは、とても嬉しいことと思う。
書名:はじめての文学 よしもとばなな
著者:よしもとばなな
出版社:文藝春秋
請求記号:Y913.6 /ヨ 文藝春秋社の「はじめての文学」シリーズは、
稲城市の図書館ではヤングアダルトコーナーに置いてあります。
小説を読む楽しみを若い世代に伝えるために、
日本を代表する作家が自作の中から選んだ中短編を収録しています。
中高生にはもちろんオススメ、大人でもワクワクするシリーズです。
私は小さい頃から比較的本が好きな子供だったと思いますが、
「小説ってこういうものなんだ~。読書ってなんて充実した時間なんだ!」と改めて思ったのは、
高校生の頃、よしもとばななさん(当時は吉本ばななさん)の「キッチン」を読んだ時でした。
ストーリーが良いとか、先が気になってしかたがないという面白さではなく、
表現の多様さ、言葉の魔力、人物の放つ光、
そういったものに強くひきつけられたのを覚えています。
「神様、どうか生きてゆけますように。」(本文の台詞)
と祈ってしまうような出来事の中で、なんとか立とうとする登場人物の姿はいつも心にあって、
引っ越しても引っ越しても必ず手元に残しておく本になりました。
また、タイトルの通り台所が大きな意味をもつ物語なので、
食べものや飲みものもよく登場します。それが美味しそう。
読むたびに食べたり飲んだりしたくなってしまいます。
台所は生きること、暮らすことの根っこ、と思えます。
この本には「キッチン」の他、
「おかあさーん!」/おやじの味/バブーシュカ/ミイラ/ともちゃんの幸せ/デッドエンドの思い出
が収録されています。