| 2012/11/22 | ちょっと気になる、植物の気の毒な名前 | | by 図書館スタッフ |
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秋です(暦の上ではもう立冬を過ぎましたが)。
空は高く、空気はひんやりと爽やかで、ぶらぶらと散歩するのに快適な季節です。
この時季は、上を向けば、紅葉が始まっていたり柿がたくさん生っていたり(だがあれは渋柿
に違いない…)で、目も楽しい。転じて足元を見てみれば、道端にも意外なほどさまざまな花
がまだ咲いていて、こちらも楽しみです。
今いちばん元気な野の花と言えば、セイタカアワダチソウでしょうか。空き地や河川敷などに
大群落をつくっている、あの黄色い花です。北米原産の帰化植物だそうですが、日本の気候
風土とよほど合性が良かったらしくものすごい勢いで増え広がり、すっかり嫌われ者になって
しまったようです。
けれど。昔むかしの幼い日、太陽が沈み始めた秋の夕方、友だちとかくれんぼをしていたはず
なのにふと気がつくと誰もいなくなっていて、セイタカアワダチソウの黄金色とススキの枯れ色
がいちめんに広がる川原に独りぼっち。カラスがかあかあ鳴きながら夕焼け空を飛んでいった…
などという思い出があるわけではありませんが(それにしてもあまりにも陳腐なイメージで、我
ながら赤面モノであります)、そんな切ない懐かしさを呼び起こすものがあって、私は好きです。
ところで。
このセイタカアワダチソウ、別名を「びんぼう草」というものと私はずっと信じ込んでいました。
昔誰かにそう教えられたのかもしれません。先の陳腐的空想の風景だって、郷愁は誘われる
けれど“リッチ”とか“ゴージャス”とかはどうやったって出てこないものね、と納得していたの
ですが、今回改めて調べてみたらそんなことはどの本にも載っていず、長年の思い込みは
まったくの間違いだったということが判明しました。セイタカアワダチソウよ、ごめん!
「びんぼう草」という別名を持つ植物は他にあって、それはハルジオンという花です。漢字では
「春紫苑」。素敵な名前でしょう? 本名の方が断然いい(当然ですけどね)。花自体も、白や薄い
ピンクの糸のような花びらが黄色の花芯のまわりを囲んだ、とても可憐な風情の花です。春先に
空き地などにたくさん咲いている、子どもの頃からお馴染みのあの可愛い花が貧乏草だったとは。
おもに関東地方での呼び名だそうですが。
ハルジオンも繁殖力の強い植物で、種子だけでなく根の断片からも再生する力を持っている
のだそうです。なので、じゃまだからとむしろうもんなら、かえってはびこってしまうのだとか。
日本の家がまだ茅葺き屋根だった頃、お金に余裕のない家は新しい茅に換えることができず、
その屋根の上にハルジオンの花が咲いたんですって。で、「ハルジオンを折ったり摘んだりする
と貧乏になる」なんぞ言われるのは、むしると逆に増えてしまって、しまいには屋根に花を咲か
せるぞ、という警告なのだそうです。あらら。子どもの時にはそんなこと知らないから、持ちきれ
ないほどいっぱい摘んで、大きな花束を作って遊んでましたがな。
貧乏ついでにもうひとつ。
またの名を「ビンボウカズラ」という植物もあります。ヤブガラシ(「藪枯らし」)がそれ。名前の通り、
藪を覆って枯らしてしまうほど繁殖力の旺盛なつる性の植物です。庭木や生垣がこれに絡まれる
と家全体が貧相に見える、とか、庭の手入れどころではない貧乏な人の住処に生い茂る、とか
いうのがその由来らしいです。まあ無理もないかもしれませんが、でもね、これもよくよく見ると、
うす紅色のちっちゃな花がとても可愛らしいんですよ。…なんだかなあ。
ハルジオンにしろヤブガラシにしろ、生命力・繁殖力がめちゃめちゃ強い→“ハングリー精神”
とかを連想→「ビンボウ○○」と命名、ということなのでしょうか。
さて、次。
「いくらなんでもその名前はないんじゃないのー!誰かなんとかしてあげてーっ!!」と長年思い続け
ている、気の毒な植物があります。しかもこれらは別名ではなく、正式な名称なのです。
その1 へクソカズラ(屁糞葛)
はい確かに。確かに、実を潰したりすると、この二つを一緒にしたようなものすごい匂いがします。
ええ、それは事実ですとも。でも!だからって、ここまであからさまに言わなくても…(泣)。
神さまのチョー器用な指先(まさに神の手!)がこしらえた、繊細な細工物のような小さな小さな花を
見たら、賛同してくださる方も多いのではないかと思うのですが、いかがでしょう。
その2 オオイヌノフグリ
イヌは犬。フグリは、漢字では陰嚢の「嚢」、つまり睾丸のことです。即ち「犬の睾丸」。実の形が
似ているからだそうです。
…………。
まだ風の冷たい春の初め。ふと下を向いた時、星くずの欠片をさらに細かく砕いてばらまいた
ように、オオイヌノフグリの小さな花が足元に点々と青く光っているのを見つけることがあります。
「ああ、春が来た!」と感じる瞬間です。私にとっては「春告げ花」とでも言うべき(これもセンスある
ネーミングとはとても言えませんが)、春の訪れを知らせてくれる大好きな花です。なのに!その
愛らしい花を無視して、なにもわざわざ実の形の方に注目しなくたっていいじゃありませんか(怒)。
ちなみにオオイヌノフグリには「星の瞳」という別名があるそうです。「ほーら、やっぱりね~。そう
いう風に見えるもの。私だけがそう思ってたわけじゃないのよね~」とにんまりしたものの、いささか
乙女ちっくなこの名前が今さら定着するとはとても思えません…。
いくらかわいそうに思っても、たかが私ごときではどうもできないのが残念でなりません。偉い学者
の先生とかどなたか、本当にどうにかしていただけないものでしょうか…。