みなさんは、どんなところでする読書が好きですか?
「もちろん、稲城図書館でする読書だよ」なんて言ってくださったら
望外の幸せですが…(笑)
カフェでする読書、電車でする読書、ベッドでする読書…。
どれも捨てがたいですが、旅先での読書もまた格別ですよね。
かく言う私も、旅には必ず読みさしの本を携えていくのですが、
先日の旅では、一度もその本を開きませんでした。
なぜかというと…。
泊った宿に、その宿を舞台とした本が置いてあったからです。
チェックインの手続きをすませ、ウェルカムドリンクでほっと一息。
テーブルにあったレザーの箱を開くと、1冊の文庫本が入っていました。
「旅をあきらめた友と、その母への手紙」というタイトルのその本は、
まさに今、私がしたばかりのチェックインの様子や、
今いる部屋の様子がそのまま描かれていました。
長さもちょうど、旅の合間に読み切れる程度の短編です。
後半は眠る前に読みましたが、
食事前に散策した近所のタクシーの駐留所も出てきたり…。
(6時過ぎの薄暮の中を散策していたら、駐留所の方に
「もうすぐ真っ暗になるよー。」と声をかけてもらったばかりでした。)
読んでいる本に、知っている土地の描写が出てくるのは楽しいものですが、
ここまで現実とリンクするのは初めての経験です。
スタッフの方にうかがうと、
やはりこのホテルがオープンするにあたって書き下ろしてもらった作品とのこと。
作者はなんと、映画の原作などでも人気の原田マハです。
これはお土産として販売したら売れるだろうな。と思いましたが、
非売品といわれ、納得。
ここで読んでこその楽しさは、持ち帰らない方が、思い出の中で際立つはずです。
でも…やはり司書の性か、出版状況が気になってしまい、帰宅後に調べてみました。
「旅をあきらめた友と、その母への手紙」は、どうやら
『さいはての彼女』という本に収録されているようです。
ちなみに、同じ登場人物が描かれる「寄り道」という作品も
『星がひとつほしいとの祈り』という本に収録されており、
どちらも中央図書館にありました。
でも、たしかにあの1作品だけで製本された、カバーもない文庫版は非売品の模様。
そっけないような薄茶色の表紙は、
あの部屋の、あのテーブルによく似合っていました。
広い窓の前に据えられたソファで、小さく流れる音楽を聴くともなく聞きつつ
ゆっくりと文庫本のページを繰るのは、本当に気持ちのよい時間でした。
あの本を、あの部屋で読むためだけに、旅をする。
というのは、少々贅沢がすぎるでしょうか。
でも、いつか、また行けたらいいな。と思っています。