タイトル:『ミナリ』
監督:リー・アイザック・チョン
資料番号:630330264
請求記号:D7BF/ミ
1980年代、アメリカの片田舎に移住した韓国人の若い夫婦が、まだ幼い子供たちを連れ、成功を夢見て農業にかける様子を描いた物語。まるでドキュメンタリーのような映画です。
父親が広大な「ガーデン」(妻には農業をやりたい事はふせ、広い庭があるとだけ伝えていた)で作ろうとしている物は、韓国料理で重宝する新鮮な野菜です。アメリカでは韓国からの移民が多く、韓国系の食料品を扱うスーパーも多くあり、それを見越したニッチなニーズ作物ですが、それだけに当たれば今のジリ貧生活が豊かになると頑張っています。
気候が異なるアメリカの地での耕作は困難続きで、一番肝心な水の供給もおぼつかない様子では素人考えでもお先が暗い状態です。この年代は、韓国からアメリカへの移住者が、年間3万人と劇中で流れていました。同族としての団結が強い韓国の人々でも、この家族を助けてくれる人はいないようです。
そこで働いている母親の助けになるようにと、ベビーシッターとして韓国からハルモニ(祖母)が呼び寄せられました。ハルモニが韓国から持って来てくれた、新しい粉唐辛子の大きなビニール袋を抱きしめて「やっぱりアメリカで売っている物とは違う」と祖国の味を喜ぶ様子は、アメリカで生活を経験した者として共感がわきます。
その頼りのハルモニも間をおかず、脳卒中で半身不随となり、母親の負担は増すばかりで、ハルモニもさぞや情けない思いであったと思いますが、それが更なる不幸を招いてしまいます。
夫婦が病院で長く患っていた子どもの病気の快復を知らされ喜び、農作物の商談もうまくまとまって、さあこれからという時でした。少しでも家事の手助けをしようと、留守番のハルモニがゴミの焼却をしている最中、風で煽られて火が小屋に燃え移り、出荷を待つばかりの収穫した作物をダメにしてしまいます。勢いよく燃え盛る小屋の炎と、ハルモニの暗く沈んだ悔恨の眼差しが忘れられません。
病気で倒れる前にハルモニが、韓国から持ってきたミナリ(セリ)の種を蒔きながら「ミナリはどこでも育つし何の料理にも使えて美味しい」と幼い孫に語ったように、映画のタイトル「ミナリ」に込められた意味に希望を感じます。
そして水辺で青々と茂ったミナリ(セリ)を、父親と息子で収穫に来る場面で画面が終わります。
この映画の唐突な終わり方は、この家族のその後は我々の思いに委ねられている気がします。
移民の逞しさを知っている我々としては、この家族がこの年代を振り返った時、とても苦労はしたがそれも懐かしい良い思い出になっている事を願うばかりです。