今年ももうすぐ8月6日がやってきます。
広島出身の私にとって、子供の頃から原爆というものがつねに身近に存在していたように思います。戦後広島で育った方の多くがそうであるように、小学校の頃から学校や地域で、折に触れて原爆について多く学んできました。当時の写真や、被爆者の方の話などを見聞きするたびに、子供だった私には、それらはただただ恐ろしく感じたことを、今でも覚えています。
昨年広島に帰省した際、小学生の息子と一緒に何十年かぶりに原爆資料館を訪れました。資料館を見学したことをきっかけに、息子にも原爆について知ってほしい、大人になった自分自身も改めて原爆を知りたい、と思っていた時に、この絵本を知りました。初版は1995年だそうです。
著者の那須正幹さんといえば、ズッコケ三人組シリーズがあまりにも有名ですが、広島で生まれて3歳で被爆をした那須さんは、生存者の証言をもとに当時の広島の町の様子や人々の暮らし、広島市内の被爆状況、そして原爆の開発から投下にいたるまでの歴史的背景、核兵器の原理、放射線障害など、風化させてはならないテーマをこの本の中で多角的に書いています。また絵をてがけた西村繁男さんは、実際に1年近く広島に住んで町を取材し、たくさんの証言や資料を集めて、複雑な内容を子どもたちにも分かるように丹念な絵で描いています。
この本は、個人の被爆体験というよりも、あとがきにあるように原爆の全体像が描かれており、一貫して上空から俯瞰した視点で、広島の町の様子が描かれています。ページをめくる度に見開きに大きく広がる町の光景は、まさに広島の歴史を絵で読んでいるかのようです。
最後は、以下の文で作品が締めくくられています。
「
毎年、毎年、くり返し、くり返し、わたしたちは、あの日のことを思い出そうではありませんか。
たとえ被爆の体験がなくても、あの日、広島でおこったことを記憶して、絶対に忘れないことが、残された者のつとめだと考えるからです。」
那須さんは被爆者でありながらも、その事実からできるだけ離れたところから客観的に原爆について書かれている分、この最後の言葉には胸に響くものがあり、読み手が各々の立場で、知ることや考えることの大切さを教えられているように感じます。
こちらは絵本ではありますが、対象は、小学校上級~大人まで、となっています。是非この夏、手に取ってご覧頂ければと思います。