書名:悪医
著者:久坂部羊
出版社:朝日新聞出版
請求記号 913.6/ク
現役の医師である作家が書く医療ミステリーは、どれも臨場感があり
大変興味深いのですが、中でも私が特に注目しているのが久坂部羊氏です。
デビュー作「廃用身」では、マヒで手足が動かなくなった高齢者に対し、
マヒした部分を切断することで機能の改善を促す、という考えもつかないような
ストーリーに驚嘆し、それ以来久坂部氏の小説はどれも目が離せなくなりました。
そんな久坂部氏が、さらに医師ならではの目を通して迫真のリアリティで
描いているのが「悪医」です。
タイトルから"どんなあくどい医者が出てくるのだろうか"とワクワクしたのですが、
その思いは見事に裏切られます。
物語は、末期のがん患者へ余命を告げる医師と、それを宣告された患者の
意識のすれ違いにより展開します。
医師は副作用のある苦しい治療を受けてさらに余命を縮めるよりも、
心安らかに残された時間を有意義に過ごすことを勧めます。
一方、患者としては治療をしないのは死ねということ、
最後まで希望を捨てずに治療を受けたいという強い思いがあります。
そのずれから生じる溝は深く、命に関わることだけに読み手側には
大変重くのしかかります。
私達が医療を受けるときは、少しでも早く治してもらいたいという思いがありますが、
治りが少し遅かったりすると"この医者は良くない"など、
医師の診察に不信感を抱くこともあります。
特に、わらをもつかむ思いで医師に生命をゆだねる患者にとっては、
良い医師に求める条件のハードルは大変高いといえるでしょう。
受けている医療が正しいのか、治療を施す医師は本当に良い医師なのか
悪い医師なのか、自分は医療に何を求めるべきのか、
この小説を読むと深く考えられます。
この作品は、医療エンターテイメントとして高い評価を受け、
日本医師会主催の第3回日本医療小説大賞を受賞しています。
そのとき、久坂部氏は次のようなコメントを出しています。
『医者が良かれと思ってしたことが患者さんのうらみにつながったり、
逆に医者から見たら良くない治療が患者さんにとっては望ましい治療法だったり、
医療現場では善と悪が混沌としている状況がある。
これは非常に文学的なテーマであり、小説によって伝えることができると思った』
ちなみに、この「悪医」の後に、久坂部氏は「嗤う名医」という小説を
発表しています。
こちらは、さまざまないわくつきの医師が登場する短編集で、
「悪医」とは異なるウィットに溢れた医師達に出会えて
久坂部ワールドがさらに広がります。
題名:日本全国津々うりゃうりゃ
著者:宮田珠己
出版社:サンマーク出版
請求番号:J291.0/ミ 著者の宮田珠己さんはヘンなモノが好きなひとです。
断定しちゃいます。
お会いしたこともないのに失礼ですけど。
シュノーケリングが趣味です。
理由は、ヘンな形のウミウシを見ることができるから。
かつて、高さ40メートル以上 (と、ご自分で規定されました)の巨大仏を見るため、
日本全国を巡ったことがあります。
…巨大仏って相当ヘンなモノだと思う。
肩書きは"旅行エッセイスト"。
で、日本の旅行作家の常…なのかどうか、
温泉についての著作もお持ちです。
ですが実は温泉はあまりお好きではなく(特に熱いのは苦手なんだとか)、
興味はもっぱら、古い温泉旅館によくある増築に増築を重ねて
迷路みたいになっちゃった建物に向いているようです。
そう、迷路好き。これもちょっとヘン。
そんなヘンなモノ好きの宮田さんが
「うりゃうりゃ~っ!」とした気分を味わいに、
日本のあちこちに旅に出ました。
遠くは津軽とか。天草とか。
近くは大陸とか。…………ん?近くの?大陸?……とは、
「と言っても過言ではないうちの庭」だそうです。
奇をてらってあえてヘンな場所を選んだり、などしていません。
思いっきり観光地な日光東照宮なども訪れていますが、
さすがは宮田珠己、あの有名な彫刻群の中に、謎のクラゲだのタコの足だの
ハサミのないカニだの、おびただしい数の海の生きものを発見して 興奮していたりします。
……あそこってそんなものがあったんだ?!ご本人が撮った写真を見ると、
思わず納得して笑っちゃいます。
はいその通りそれ私やっちゃってます、すいません、
と、うなだれたのは、ガイドブックに「見逃せません」などと
載っているものには要注意。
「見逃せません」はテレビや雑誌ですでに見て知っていて、
現物ではその知っているモノを確認する
という感じになってしまうから。
「見逃せません」さえ押さえておけばあとはざっと見ればいいと思ってしまって
「見逃せません」以外のものを見逃してしまう、という箇所を読んだときです。
宮田さんはいつだって、自分が面白そうだと思うところに行き、
自分にとっての面白いモノを見つけ、
うりゃうりゃと面白がっていて、
そこがとても魅力的です。
あたりまえなことのようですが、とらわれている私にはなかなかできません。
この本には、著者ご自身の手になる妙なイラストも多数載っています。
ミョーなんだけど、上手いんだな、コレがまた。
文章もイラストも写真もすべて、
うりゃうりゃ~っ!と楽しい本です。
うりゃうりゃした気分を味わいたい方、ぜひお読みになってみてください。