| 2014/10/01 | スタッフのおすすめ本!(2014年10月) | | by 図書館スタッフ |
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書名:ボタニカルライフ
著者:いとうせいこう
出版社:紀伊国屋書店
請求記号:620.4/イ
いとうせいこうのベランダでの自己流園芸のエッセイ本である。
出版は1999年、ブログ時代に遡ると1996年でかなり前の作品である。
今回私が読み直したのは、昨年暮れよりBSプレミアムでテレビ放送が
始まったからだった。私は出版当初にこの本を読んだが、どうしたら
テレビ放送になる?それが何故今?と驚いた。
いとうせいこうは多才な人である。コラムニストに俳優、ラッパー、
書くだけでも「ノーライフキング」「見仏記」近いところでは「想像ラジオ」
と話題作を出している。
この本は当初本人のブログで発表していたところ話題になり、紀伊国屋書店の
ブログに移り、出版に至ったものである。
この本でいとうせいこうは第15回講談社エッセイ賞を受賞している。
ある日園芸に目覚め、庭でのガーデナーに対抗して、ベランダでのベランダー
と称して植物を育てることに情熱を燃やし、植物を育てる人は良い人という
固定観念に抵抗をして“俺”の一人称を使い、ボタニカルハードボイルドを目指して
その植物生活を書いている。
カレル・チャペックの「園芸家12カ月」をリスペクトしていて、植物生活を
記録することを使命とし喜びとしている。
ともかく熱い植物愛が軽妙な文章で語られていて、園芸はこうした方が良い的な
話しは全く無く、あくまで自己流にこだわり、枯れたら捨てるに迷いは無い。
私は短日処理の話しが好きだ。
シャコバサボテンの花を咲かせるべく、ダンボール箱を被せて暗い時間を増やす
短日処理をするのだが、咲いたのは良いが短日処理の止め時が分からなくなる…
という話だ。 ダンボールが被って肝心の咲いた花が見えなければ本末転倒だから
である。
私もベランダにかなりの数の鉢植えを持っている。
ベランダで育てるとマニュアル通りにいかないことが多く、この本を読んで
相づちを打ったり、呆れたり、笑ったりした。
他に類の無い面白園芸本であるが、行間に自然への畏敬の気持ちが表れていて
心打たれる言葉も多い。 園芸好きの人も、あまり興味の無い人も楽しめる本であり、
20年近く経った今も少しも古さを感じさせない。
テレビ放送であるが、シュールな作りで田口トモロヲが植物愛満開のベランダーを
良い味を出して演じていて面白く毎回楽しく見ている。
ただ本を読んでいると、プロジェクトXのトモロヲの声が聞こえてきて参った。
続編もおすすめです。
『自己流園芸ベランダ派』(627.8/イ)毎日新聞
書名:富岡日記
著者:和田 英
出版社:みすず書房
請求記号:639.07/ワ
2年ほど前の夏休み、信州に向かう道中、全く予定に入っていなかったのですが、
たまたま視界に入った看板につられて向かったのが「富岡製糸工場」でした。
今でこそ世界遺産に登録され、多くの観光客が訪れて大変な賑わいですが、その時は
まだ人も少なく案内のボランティアさんの丁寧な説明を聞きながらゆっくり見学ができました。
富岡製糸工場というと「ああ、野麦峠」や「女工哀史』などの舞台であるというくらいの
予備知識しかなかったのですが、実際に訪ねてみると、私の偏見だったことが分かりました。
まず、天井は高く、窓も広く、明るい日差しが入るモダンな西洋風の工場に驚きました。
説明を読むと、勤務時間は8時間、休憩時間、週一回の休み、夏冬の長期休暇や寮も保証され、
さらには、医師も常駐しているなどかなり恵まれた環境だったようです。
明治政府の殖産興業政策の一環として、フランスから技師を呼び、蒸気機関など
最新の西洋の技術を取り入れたというのですが、それにしても明治5年操業開始
という時代を感じさせないものがありました。
写真などもありましたが、そこで働いていた女性たちは何を考えていたのだろうか
と思って知ったのが、ここに紹介する「富岡日記」です。
日記の著者、和田英は松代の藩士の娘で15歳のときに「伝習工女」になります。
その時すでに500人を超える若い工女たちが働いていたのですが、この時代の
若い女性たちが、それぞれの郷里や一族の代表であるという誇りを持って、
技術の習得にしのぎを削る様子が、生き生きと描かれています。
著者は、同郷の娘たちのリーダーとしての自覚もあり、使命感に燃えて
新しい技術を学び、後に郷里で日本初の民営の製糸工場の指導者になります。
この日記は、実際は回想録で、前半が富岡、後半が郷里にできた製糸工場である
「六工社」での出来事が記されたものですが、描写は鮮明で、仕事の内容や
日常生活の様子などが事細かに記され、資料としても貴重な存在となっています。
これから、富岡製糸工場を訪れてみたいと思っている人には是非ともお薦めです。
*世界遺産に登録されたのをきっかけに、筑摩書房から「富岡日記」の文庫が
6月に出版されました。こちらには解説も加わって、富岡製糸工場の歴史や著者の
生い立ちなどが記されています。