「フリージアの好きな人だね!」
今までもらった中で一番嬉しい別名である。
家族の都合で引越したまだ誰も知る人もない街の、
老夫婦の営む小さなお花屋さんで呼ばれた名前である。
フリージアは姿形が可愛いだけでなく香り爽やか、
そして持ちがいいと三拍子揃っている一番好きな花なので、
冬から春の終わりにかけて外のバケツになければ中に入り
「フリージアありますか?」と訊いていたせいだ。
お店の前で足をとめただけで
「フリージアの人だ。今日は白いのが入ってるよ!」
なんて言われた日にはもう嬉しくてスキップしたいくらいだった。
お店の方にとっては
「マグロの好きな人だね!今日は中落ち入ってるよ!」
と同じ感じだったとしても、それはそれ。私が嬉しいからいいんです。
思えば今までもらってきた別名は非モテまっしぐらなものばかりだった。
まず同窓会でも健在だった「図書委員」。小学生の時、
図書係になりたくてたまらなかったのにじゃんけんで負けて飼育係になり、
うさぎに人参の皮などあげながら、中学生になったら絶対図書委員になる!
と決めて3年間立候補しつづけた結果だ。
次は「給食」。給食が好きすぎてほぼ毎日おかわりの列に
並んでいたせいだろう。グラタン風煮、マカロニに甘いきなこをかけたの、
ソフト麺を入れるカレー、揚げパン、五目豆。ああ今思い出しても
よだれが出てしまう。中学三年の卒業式の日に流した涙の半分は
もう毎日会えなくなる友へだったけど、残りの半分は給食へだったと
確信している。
この先「フリージアの人」を越える素敵な別名で呼ばれることはあるだろうか。
無さそうだが、いや、人生何があるか分からない。
もし呼ばれるのなら今までと同じく好きなもの由来だったら大歓迎である。