| 2009/09/11 | スタッフのおすすめ本!(9月) | | by 図書館スタッフ |
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タイトル:神なるオオカミ 上・下巻
著者:姜戎(ジャン ロン)
請求記号:923.7/キ
皆さんは狼というと、どんなイメージをお持ちでしょうか。
「赤ずきんちゃん」や「狼男」の物語からは、
“ズル賢い”“人間や獣を襲う怖い動物”というイメージがあるかもしれません。
また、「シートン動物記」の狼王ロボや「狼少年ケン」などからは、
“家族愛”“責任感”などを思い浮かべる人もいることでしょう。
しかし、それだけではありません。
狼には“尊厳”“不屈の精神力”“優れた知恵と戦術力”“強い仲間意識”など、
かつてモンゴルの草原民族が「神」として称えてきた崇高な動物の性があります。
そのことを、作者のこの自伝的小説を通して、圧倒的なスケールで教えてくれます。
モンゴルに伝統的な遊牧民が暮らし、大自然と共に生していた時代、
彼らは“大きな命”である草と草原を大切にしながら生きていました。
大きな命が脅かされれば、小さな命である人間は生きることはできない。
それが草原に生きる彼らの真髄であり、羊や馬、牛、白鳥、
そして狼などさまざまな生き物と人間が共生していくための掟でもあったのです。
自然界での共生では、飢えた狼が人間の大切な馬や羊を奪ったり、
人間自身の命を脅かすこともあります。
そのとき、人間と狼との間には壮絶な闘いが繰り広げられます。
しかし、狼を憎み虐殺してきた西洋とは異なり、
遊牧民たちが狼を忌み嫌うことは決してありません。
彼らにとって狼は、大きな命である草を食べつくす動物達から草原を守る守護神であり、
狼に対して崇高な思いを忘れることはないからです。
そんな中、中国の文化大革命の流れにより、
北京から知識青年の陳陳がモンゴル辺境の遊牧民の生活に下放され(送り込まれ)てきます。
草原で遊牧民と暮らし狼と共生していくうちに、彼は次第に狼に魅了され、
そして遂には狼の赤ちゃん(小狼)を捕らえて遊牧民に内緒で飼い始めてしまいます。
しかし、それは草原で暮らす遊牧民達にとって許しがたい行為。
それを陳陳も重々承知していますが、どうしても手放すことができません。
わが子のように小狼へ愛情を注ぎ一生懸命育てようとしますが、
それが悲しい結末を招くことに…。
同時に、モンゴルの草原には農耕文化と近代化の波が押し寄せ、
大きな命である草原を守ってきた狼の姿も、失われてゆきます…。
日本でも100年ほど前にニホンオオカミが絶滅し、日本に生息する狼はいなくなりました。
その後、日本の森林では鹿や猪が増え、自然の生態系の破壊が懸念されています。
本書は伝説的ともいえる狼の生態を知ることができるだけではなく、
自然界で狼が果たしてきた役割は何だったのか、深く考えさせられる1冊です。
タイトル:無風帯から(「ちくま日本文学004」に収録)
著者:尾崎 翠
請求番号:V918/チ
蘇(こけ)の恋愛を描いた『第七官界彷徨』や、
恋の甘さを表現した『アップルパイの午後』で有名な尾崎翠の著作の中で、
私が一番好きな作品がこの『無風帯から』です。
大正時代に書かれた作品ですが、まったく古さは感じません。
尾崎翠の作品には、よく印象的な少女が登場しますが、
この作品では、光子という風変わりな少女が中心となっています。
無愛想で、平静で無口な光子と、その兄の、互いに思いやりながらも
親しめない切ない愛が、病気静養中の兄が友人に宛てた手紙という形で淡々と綴られます。
妹の恋心に気付いた兄が、友人に思いを受け容れてはくれないかと懇願しますが、
光子の境遇を哀れに思う、兄の愛の在りようが、ひしひしと伝わってきます。
静かな作品ですが、光子のたたずまいが印象に残るお話です。