連日の猛暑の中、一大決心をして出かけた。
リト@葉っぱ切り絵(ここまでが名前!)さんは、ありふれたごく普通の葉っぱを使って切り絵作品を作る葉っぱ切り絵アーティスト。私はたまたま見たテレビ番組で葉っぱ切り絵を知り、とても興味を惹かれていた。展覧会が開催されているならぜひ見なきゃ!となったのだが、それにしても、だ。ぜひ見たいが、そのために外出することを一瞬ではなく三瞬ぐらい躊躇したほど暑い日だったのに、吉祥寺に来てみると駅前や商店街は人で大いに混みあっていた。みんなすごいな。
幸い展覧会場ではそれほどの混雑はなく、でも、それなりに賑わっていた。
さっそくいそいそと最初の作品の前へ。と、思わず「おおお!!」とヘンな声が出そうになってあわてた。だって何となく想像していたのよりずっと小さかったんだもの。考えれば当たり前の話で、普通の葉っぱなのだから大きめのものでもせいぜいおとなの手のひらぐらいの大きさだ。で、今度は心の中で我が身を罵倒した。最近とみに老眼の度が進んでいるのに、老眼鏡を持ってくるのを忘れたのだ。繊細で細かなものをよくよく見たいがために急に5歩ぐらい後ずさりしたり、かと思えば、私には元々軽い近視もあるので作品にくっつきそうになるほど近づいたりと、傍迷惑でアヤシイ動きをすることになってしまった。作品の実物とともに拡大撮影された写真パネルが展示されているので老眼でも充分楽しめるのだが、実物があればやはりそちらもじっくり見たくなる。
…などと言う前に、私はそもそも思い違いをしていた。葉っぱなのだから時間が経てば枯れたりしぼんだりして、作品の実物は無くなってしまうのだろうと思っていたのだ。実際は、枯れた状態だが弾力と柔らかさを保っている「ドライリーフ」というものに加工してから制作する、多少変色するが保存も可能になる、とのことで、これも考えてみれば当然の話だった。自然のままではすぐに乾燥してパリパリになってしまって、細かく切るなんてできやしないものね。せっかく完成した作品が1日やそこらで枯れてしまうなんて、はかなくて切なくて(…その感じもちょっと悪くない気がしなくもないが)、もったいなさ過ぎる。だから、そうだったそうだった。会場に入ってすぐ、作品の小ささに驚く前に、まず「実物がある!」とびっくりしたのだった。お詫びして訂正します。
けれどいくら加工したとて葉っぱはやはり葉っぱで、葉脈はあるし厚みが均等じゃないかもしれないし、紙とは違ってずいぶん切りにくいところもあるだろうに、1ミリ以下の極細の線でつながっている部分があったりするのだ。繊細で緻密で正確な技術に驚嘆する。
技術も凄いが、同じぐらい、いやそれ以上に絵柄がとても素敵。私が受けた印象に一番近い言葉は“happy”だろうか。もっと的確に言い表わす言葉がありそうな気がするが、語彙力がなくてパッと思いつけないのがもどかしい。
作品のほとんどは動物が主人公。絵柄自体は、ごく一例をあげると、仲良しの動物たちの誕生日パーティの場面、とか、カモのおかあさんが迷子になっていた子ガモたちを見つけた瞬間、といった絵本などにもよく出てきそうな風景で、特に奇を衒ったものではない。けれど、おしゃべりや笑い声、音楽まで聞こえてきそうだったり、大冒険が始まりそうな予感があったり、そしてユーモアにあふれていて、手のひらの大きさの中にhappyな物語がいっぱい詰まっている。
もう可愛くて楽しくて、なんだかうれしくなって、気付けば自分もにまーっと笑っているのだった。アヤシイ人だったのがアブナイ人になっていた。だが思い返すと、見ている人の大半がなんだか幸せそうな笑顔だったような気がする。たとえば、機嫌良くにこにこ笑っている赤ちゃんを見ているとこちらも意識せずに自然と笑顔になってしまう、そんな感じかなあ。
残念ながら言葉ではうまく説明できなかったhappyに興味を持っていただいた方は、ぜひ吉祥寺美術館にお運びを。
図書館にもリト@葉っぱ切り絵さんの作品集があります。
『葉っぱ切り絵 いきものずかん』(第二図書館所蔵) 資料コード:211221918
『まねっこカメレオン』(中央図書館所蔵) 資料コード:612351990
蛇足だが、せっかく猛暑の中を頑張って吉祥寺まで来たのだからと、帰りはもうひと頑張りして井の頭公園を通って帰った。私は井の頭公園が好きでたまーに散歩しに来るのだが、あれほどがらんとした井の頭公園は初めてだった。名物白鳥さんボートも一艘きり。商店街はあんなに混んでいたのに。いつもはわさわさ人がいる銭洗い弁天で、初めて100円玉を洗うことができた。これで宝くじを買おう。きっと当たる。
うん、暑かったがなかなか良い夏の一日だった。