| 2008/06/13 | スタッフのおすすめ本!(6月) | | by 図書館スタッフ |
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書名:「作家の値段」
著者:出久根 達郎
請求記号:024.8/デ
小説家であり古書店主でもある著者が、
24人(故人)の作家について書いています。
もちろん普通の作家論ではありません。
たとえば永井荷風では発禁処分となった本に500万円の値が付いたこと、
川端康成では、新聞小説の切り抜きが商品になることなど、
金額を交えながら紹介しています。
このような価格の話と共に、本との出会いや作家や作品に
対する思いが語られています。
そのどれもが興味深く、著者の文学に対する熱い思いが伝わってきて
引き込まれてしまいます。
古書や古書業界についての知識を得るということだけでなく、
読書案内としてもお薦めです。
書名:『かもめの日』
著者:黒川 創
請求記号:913.6/ク
久々に「すべてを描かない」ことが、深い余韻を残す小説に出会いました。
物語は「朝は、誰の上にも、適当にやってくる。」という文章から始まります。
地球を遥か上空から見下ろす視点で、
細かく切り取られた世界が描き出されていきます。
心に傷を負い、折り畳みナイフを隠し持つ少女。
少女を見失い、ベンチで夜を明かした気象観測所の青年。
FMラジオ局で働く人々、ラジオドラマの脚本家…。
それぞれの一日が淡々と綴られていきます。
場面の切り替わりは唐突です。
複数のカメラで撮られた映像をスイッチャーが切り替えるように、
ラジオのADがマイクのカフを切り替えるように。
本を読んでいるというよりは、映画を見ているようです。
単館モノのロードムービーなら、よくある手法。
互いの関わり合いが説明されることもなく、
しかし、そのこと自体が小説の世界観を物語っています。
無作為に切り取られたようにみえるそれぞれの場面が、
実は互いに関わりあっていることを知るのは、
読者である私だけです。
物語は終盤に向けて繋がりを深めていくのに
登場人物たちは最後までそのことに気づきません。
私もきっと、彼らと同じだなと感じました。
私が捉えることのできる世界は、
自分の目で見えるもの、
自分の心が感じようとするものだけに限られています。
実は私たちは、自分とその周りのことですら
ごく一部しか知ることのできない世界に生きているのかもしれません。
その世界は、他の人の世界とところどころ重なり合い、
しかし私たちは、その重なりに気づくことができずに生きていくのでしょう。
その事実は、人によって「孤独」と捉える性質のものかもしれません。
しかし、それでよいのだ。と思える小説です。
しずかな気持ちでゆっくり味わってみてください。