八月の終わりに美容室へ行った。
見かけない若いスタッフ、たぶん新人君が、
ベテランのカットの前に髪の状態を見にやってきた。
新人君は初対面の私に、
「この夏はどこに行きました?」と笑顔で聞いてきた。
はっとした。
夏にどこに行ったか?
夜行列車で北海道にたびたび出かけたのはいつ頃だったか。
西日本にも夜行で行ったことがある。
プールなんてずいぶん昔に行ったきりだ。
毎年夫の実家に帰省はしている。
新幹線やローカル線を乗り継いでの長旅だ。
義理の両親が元気な頃は、山や湖に連れて行ってもらった。
お盆の花火大会にもよく行った。
しかし今は、家の片付けや掃除、介助、お盆の準備で忙しく、
帰省そのものが仕事のような感覚になっている。
自分はこの夏どこに行ったのだろうか?
戸惑った私が彼の問いにもごもごしていると、
「ぼくは海に行ったんですよ。いやぁサーフィン初めてやったけど、
なかなかボードに立てなくて。で、悔しいから・・・」
と、鏡の中の彼は堰を切ったように話し始めた。
あぁそうか、しゃべりたかったのか。私に話を振っただけか。
しかしながら彼の一言のおかげで、
あっち方面こっち方面と夏の思い出がたくさん頭に浮かび、
それはそれで楽しかった。
そうだ、この秋にどこかへ行ってみようか。
秋におすすめのガイドブックを探して出かけよう。
どこに行ってみようかなと楽しむことを
すっかり忘れていたことに気づかされた、この夏だった。