ミンミンゼミの鳴き声が聞こえると、母の実家を思い出します。
子どもの頃、毎年夏になると家族で帰省していました。
母の実家は新潟の山間にあります。
平地はほぼ田んぼ。その所々に集落があり、周りを緑の山が囲んでいました。
道路は真っすぐで信号がほとんどありません。
小学校や農協の建物が田んぼの真ん中に建っていました。
所々に防風林も立っています。
黄緑の稲と、防風林の緑、もっと深い緑の山、青い空と白い雲。
茶色っぽい家の壁と、冷めた赤っぽい色の屋根に、
青や茶色のかまぼこ形の倉庫。
そんな風景でした。
新潟の家には祖父母と伯父が住んでいました。
家の中も見慣れないものばかり。
黒電話と青い羽根の扇風機に、薄暗い仏間の立派な仏壇、上をみれば神棚。
黒電話で留守番をしていた東京の祖父母に電話したのを覚えています。
家の周りにある畑ではトマトやキュウリやナス、
トウモロコシなどを育てていました。
スイカを見せてもらったこともありました。
歩くと草の陰から黄緑色の小さなカエルが出てきてぴょんぴょん跳ねます。
黄緑のバッタや茶色のコオロギも突然飛び出します。
小さな蝶があちらこちらでひらひらと舞っていました。
音も東京とは違っていました。
用水路の水音、たまに通る車の音、イントネーションの違う言葉。
そしてミンミンゼミ。あちらはセミの鳴き声が大きいのです。
すぐそばの木からも、近くの山の方からも遠くの山の方からも
セミの鳴き声が聞こえました。
ミンミンゼミに限らず、アブラゼミ、ツクツクボウシ、ヒグラシなど、
いろいろなセミの鳴き声が混ざっていました。
風景は変わっていないと思いますが、祖父母は他界し、
伯父は施設に入り、家は数年前に取り壊したため、もうありません。
でも、ミンミンゼミの鳴き声を聞くと、
あの風景と新潟の祖父母の事を思い出します。