5月某日、つい先ごろまで上野の国立博物館で開催されていた
「東寺展」に行ってきました。
お目当ては日本一イケメンな帝釈天、「帝釈天騎象像」です。
会期も終盤に近いせいか、大嫌いな入り口前の行列はなし。
中に入ればそれなりに人は多いですが、入場してすぐのゾーンというのは
どの展覧会でも混み合っているものです。
幸いと言ってはなんですが、その辺は見てもよくわからない
お経などが展示されている場所だったので、弘法大師さまには失礼ながら、
さらっと眺めてそそくさと通り過ぎました。
しかし前から聞きたかったんだけど、弘法筆を選ばずというのは
本当なんでしょうかね?
第二会場の入り口には、二番目にお目当ての兜跋毘沙門天が立っていました。
もともとは王城鎮護のために平安京の入口の羅城門楼上に
祀られていたそうですが、確かにこんなのが門の上でがんばっていたら、
邪な心持ちの人はくぐりづらいですわなあ。
等身大ですがスラリとした八頭身で、日本人の体形じゃない。
顔だちも着ている鎧も異国的です。唐から招来したという
このエキゾチックな毘沙門天さまを、当時の人たちはどんなにか驚いて
見上げたことでしょうね。
にまにましながら進んで行くと、そら出た!
お目当ての帝釈天騎象像は今回の目玉であり、別格でもあり、
こちらのみ撮影可。9割ぐらいの人が頭の上でデジカメやスマホを
構えておりました。ただしフラッシュは禁止なのに、ひっきりなしに
ぴかぴか光っています。
係りのおねえさんが
「フラッシュはご遠慮ください。スマホ、カメラの設定をいま一度
ご確認くださぁい!」とエンドレスに繰り返しているのを気の毒に思いつつ、
「ちょっとそこのおっさん!腕伸ばし過ぎ!スマホ邪魔じゃま‼」と
心の中で罵りつつ、しかし写真撮りたくなるのわかるな~。
どの角度から見てもばっちり決まってるんですもん。
金剛杵という武器を持ち、騎乗の象の背の上で右ひざを曲げ
左足を垂らす半跏踏み下げと云われるポーズもカッコいい。
ど素人でもスゴい写真をものにできそうな気にさせてくれる被写体です。
帝釈天部門イケメン日本一は間違いないな~、と、ぼーっと眺めていると
(もしかしたら口が半開きになってたかもしれない)、すぐ後ろで
「まあ…本当に好男子ねえ……」という年配の御婦人の呟きが聞こえました。
好男子!なんと由緒正しい響きであることでしょう。
「イケメン♡」なぞ言って喜んでいる自分がいかにも軽薄で、
恥ずかしくなりました。
振り返ってお顔を見るのはさすがにはばかられましたが、
上品な着物を着こなして背筋をしゃんと伸ばした、銀髪の美しい方に
違いありません。何の根拠もありませんが、きっと。
だって好男子の帝釈天と上品な老婦人、なんともお似合いじゃありませんか。
いい気分になって、みうらじゅん氏によれば“仏像のデパート”のような
会場内をうろうろしました。
仏像というのは、お祀りされているお寺に行って、
手を合わせたりしてから真摯な気持ちで拝見するのが本来なのでしょうが、
こういう展覧会の良いところは、普段は見えない背面なども含めて360度、
ごく間近で見られることです。
見上げる角度やこちらの気分の変化で、お顔の表情も変わって見える。
薄暗い中をぐるぐる廻っていたら、なんだか夢見心地になりました。
残念だったのは、不動明王座像がパネル写真のみだったこと。
絶対に上野にいらっしゃるだろうと思い込み、お目当ての三番目に
していたのですが。
初期の不動明王像の特徴だそうですが、
パンチパーマのようなアレではなく、髪を左側でまとめて編んで
耳の前に長く垂らす独特の髪形をしています。
以前、これをどなただったか「緊張感のない髪形」と評していたのを読んで
ブッと吹き出し、「うまいこと言うなあ」とたいそう感心したものです。
今回も、デカい写真の前で、国宝と言われようが“静かな憤怒の表情”と
説明されようが、「…でも髪形に緊張感がないんだよね……」
と思ってしまう、不届き極まる私なのでした。
日常から離れて少しだけ心豊かに、とても楽しいひとときでございました。