かれこれ10年近く前のことになると思うが、
初めて「ヘアドネーション」という言葉を知った。
ヘアドネーションとは、小児がんや先天性の脱毛症、
不慮の事故などで頭髪を失った子どものために、
寄付された髪の毛でウィッグを作り無償で提供する活動のことである。
アメリカ発祥で、日本では2009年にJHD&C
(Japan Hair Donation&Charity,ジャーダック)が活動を開始した。
しばらくして突然「私もやってみよう!」と思い立ったものの、
その当時の私は毛先がギリギリ肩につくかつかないかくらい。
何故いけると思ったのか、当時の自分に問いたい。
ヘアドネーションをするためには
31cm(12インチ)以上という長さが必要になる。
15cmから受け付けている団体もあるが、
それは帽子に付けるタイプのもので、需要が高いフルウィッグは作れない。
「やるならフルウィッグを!!」と、なんとか3年以上かけて髪を伸ばし、
やっと31cmの長さが取れるくらいになった。
さて、次に問題となったのは、ヘアドネーションは
どこの美容院でもやってもらえるわけではないということである。
当時、私が通っていた美容院ではできないと言われてしまった。
自分でドネーションカットをして送るという方法もあるのだが、
前髪のカットもろくに成功したことがない自分に
それは無理だろうと早々に諦めた。
インターネットで提携美容院を探したり、
先にヘアドネーションをした友人に聞いたりしながら、
納得いく美容院にたどり着き、無事に髪の毛を寄付することができた。
30代最後の社会貢献として、自分の髪も
誰かの役に立つかもしれないと思うと、帰り道は頭も心も軽やかだった。
髪をバッサリ切った私を見て驚いていたが、
ヘアドネーションの話をすると「私もやってみる!」と、
続いて挑戦する友人も現れた。
今では女優さんや有名人が発信したことにより、
ヘアドネーションはずいぶん認知されたなあと思う。
長い髪を切った時にヘアドネーションしていないと、
SNSで叩かれることがあるほどだというから驚きである。
「ヘアドネーションなんて偽善だ。」「ただの自己満足でしょ。」
「意味がない。」と言う人もいる。そんな人も一度JHD&Cのホームページや
活動報告をご覧いただきたい。
代表の方は、いろんな髪型が個性として認められるように、
髪がないことも個性の一つとして普通に受け入れられる社会になることを
目指しているという。
偽善だって良い。自己満足だって良い。
だって、残念ながらまだそんな成熟した社会にはなっていないのだから。
好奇や同情の目から自分を守るために
ウィッグを必要としている子どもがいる。
髪の毛がない自分を見ると親が悲しむから、
という理由でウィッグを望む子どもがいる。
ただ「髪を結ぶ」ということを経験してみたい子どもがいる。
「ヘアドネーション」という言葉を知ったあの日、
自分の頭に合わせて作られたフルウィッグを被って
とても良い笑顔になったテレビの中の少女。あの姿は今も忘れない。
笑顔になれる子がいるのならばと、私はまた髪を伸ばす。
次は、希望している子はたくさんいるけれども
寄付が少ないというロングヘア用(40cm以上)を目指して頑張ろう。
◆参考資料
タイトル:『髪がつなぐ物語』
著者:別司 芳子
請求記号:916/ベ
資料コード:612020129 など
(市内の図書館全館で所蔵しています)