蔵書検索


 
詳細検索
新着資料検索

利用方法
 

休館日

開館カレンダー


 中央 第四月曜日
 (祝日の場合は翌日)
 年末年始・特別整理期間
 第一
 第二
 第三
 第四
 月曜日
 祝日・年末年始
 特別整理期間
 iプラザ
 第二・第四月曜日
 (祝日の場合は翌日)
 年末年始・特別整理期間
 

開館時間

中央・iプラザ 9:00-20:00
第一~第四 10:00-17:00
*7月21日~8月31日 
 火~土曜日:9:00-18:00
 日曜日:9:00-17:00
 

iブラリブログ

おすすめ資料 >> 記事詳細

2020/09/10

『密やかな結晶』

Tweet ThisSend to Facebook | by 図書館管理者
タイトル:『密やかな結晶』
著者:小川 洋子
請求記号:913.6/オ
資料コード:111232777
不思議な物語です。

閉ざされた島の人々の生活の中で
物の「消滅」が粛々と確実に進められています。

昨日まで生活の傍らにあった物が無くなり、
集団洗脳されたようにそれについての記憶まで
人々の中では曖昧模糊(あいまいもこ)になり、
簡単に思い出せなくなるのです。

昔は普通に豊かな生活を享受していたはずが、
いろいろな物が消え続けた結果
「空間に隙間が生じてきている」
思いはあるものの、
人々は消滅に抗うこともせず、
順応していくのです。

消滅の当初は、ぎこちなくても不便に慣れ、
すぐに忘れて疑問も持たずに、
普段の生活を送るようになるのです。

許容の範囲は人それぞれでしょうが、
消滅する物が心を潤すための物であったり、
華美な物であるならば、
消滅することの意味も理解できますが、
生活になくてはならない物も、
遂には身体までも…となると、
何のために…と思わざるを得ません。

消滅を決定し、推し進めているのは何者なのか。
何の目的があってのことなのか疑問が湧きます。

未来小説ならばAIに見限られた
人類の粛清(しゅくせい)のためかもと思われますが、
大方の人は淡々と受け入れ、
身体の部分の消滅にも無いなりの生活に
慣れていくあまりの従順さに恐ろしさを感じます。

そうでない人も一定数、物語に存在しますが、
迫害の対象になり、秘密警察に追われ、捕縛(ほばく)・連行され、
二度と世間に姿を現すことはないとあり、
かつて現実にあった戦争中の虐殺を思い起させます。

主だった登場人物はわずかに3人。

消滅の対象となった小説を書くわたし、
その編集者のR氏、
そしてわたしを小さい頃から何かと
世話をしてくれたおじいさんです。

消滅を受け入れるわたしとおじいさんは
記憶を留めることができる
「濃密な心」を持ったR氏を
秘密の小部屋に匿い、
秘密警察から彼を守ろうとします。

この小説のことは、今年のブッカー国際賞の
候補になったことで知りましたが、
残念ながら今年の受賞はなりませんでした。
日本での刊行は、四半世紀前(1994年4月)の作品です。

今読んでも未来小説のような趣がありますが、
朝日新聞(令和2年8月11日)の紙面で小川氏は
「むしろ真逆でアンネフランクの日記を
土台にして過去を向いて書いた。(中略)
時代は変わっているようだけれど
人間は変わらなくて小説は
その変わらないところを書いていく」
と答えています。

島の中での消滅が完全に履行(りこう)され、
行き着くところまで行った先にあったのは、
R氏のような記憶を無くさない人々の解放でした。

それが「復活再生」を意味するならば、
わずかな希望の灯となりえます。

06:30