書名:『ヒトラーと哲学者』
著者:イヴォンヌ・シェラット
出版社:白水社
請求記号:234.0 / シ
中央図書館所蔵コード:611732114
知識人はナチスとどう関わったか?
ヒトラーが憎しみの対象たるユダヤ人を消滅しようと初めに講じた策は、大学および公職からあらゆる非アーリア人を排除すること、そしてその排除する側になんと多くのエリートといわれる人たちが加担していったか。人間の倫理感が圧倒的支配力のもとでメルトダウンしてゆく過程、想像させることにより鮮明になる命の重み、書物を燃やすとはどういうことか、すとんと胸におちた一冊です。
私たちの世界はどこへ向かおうとしているのか?連日報道される憎悪から生じた痛ましい現実の出来事に、自己欺瞞に陥りそうになります。日常に非常がたやすく混ざる現代においてどうしたら目を曇らさずにいられるか。想像する力を働かせることができるうちに問い続けなければ、他人の感情や行為に対して『思い及ばない』『あり得ない』と思う自分に足元をすくわれないよう。
以下、本書より抜粋
―六百万のユダヤ人が殺された。もし殺された人を直立姿勢で一列に並べていくと、その死者の列はニューヨーク=サンフランシスコ間を往復したあと、さらにNYからシカゴに届くほどであった。(P327)
―ハイデガーは1976年に死んだ後も、ナチ過激派もリベラル派も革新も保守派も一様に魅了する。擁護派や修正主義者が彼のナチ加担を弁明したり否定したりするが、これまでハイデガー研究が衰えたことはなく、それどころか知的称賛が潜在的な道徳的嫌悪感を上回ることの方が多いほどだ。哲学はモラル・サイエンス(道徳学)の子孫である。そのとおってきた道筋を意識し続ける必要があるのだ。(P352)
―あそこで本を焼いているが、これは前触れにすぎない。最後には人間も焼いてしまうだろう。-ハインリヒ・ハイネ(P115) [P150焚書参照]
―著書の焼かれた哲学者のなかには、今では読まれなくなり、その思想さえ忘れられた者も少なくない。ヒトラーの哲学者たちの名声が戦前戦後を通じて揺るがなかったことに反して、抵抗勢力の哲学が忘却されるばかりだという危機意識を持つこと。火は本そのものだけでなく、そのなかの思想も灰にしてしまうのである。(P360)